2026年春、フィルム市場が二つのニュースで揺れた。片方は新製品の発売、片方は撤退の発表。表向きは正反対だが、事実を追っていくと、市場が置かれた同じ流れの二つの顔である。
コダック VERITA 200D、映画の現場から生まれた新しい色
コダックが映画用カラーネガフィルム VERITA 200D を正式ラインナップに加えた。ISO 200、デイライトバランスで、65mm・35mm・16mmの3フォーマット。コダックは従来の VISION3 に比べてダイナミックレンジは狭いものの、より凝縮された色、温かい肌のトーン、深い黒を特徴に掲げている。HBO のドラマ〈Euphoria〉新シーズンの撮影のために開発されたという点が、発売時のメッセージにたびたび登場する。
このフィルムは、街の写真店で1本ずつ買ってこられる品ではない。コダックは映画や広告の現場に供給する映画用の特殊ストックに分類し、営業担当者を通してのみ注文を受ける。写真家がよく使う36枚撮りの35mmパトローネでは正式に流通しないということだ。
この売り方は矛盾ではない。コダックはここ数年、映画用の長尺ロールが第三者の手で写真用の短いロールに切り分けられ、詰め替えられる迂回路をある程度黙認してきた。VERITA 200D もいずれ、そうした経路で写真家の手に届く可能性がある。
韓国では、スソクフィルムの供給と最初の使用例
韓国国内の供給については、スソクフィルム(수석필름)が自社のインスタグラムで明かしたところによると、まず16mmロールを入荷し、35mmロールも続けて出す予定だという。映画と広告の現場が優先なので、写真の市場で1本ずつ手に入るようになるのは、もう少し先になりそうだ。
面白いのは、最初の使用例がすでに公開されていることだ。歌手ファサの新しいシングル〈So Cute〉(2026年4月9日リリース)のミュージックビデオが VERITA 200D で撮影されたと伝えられている。コダックが新製品を正式に発表したのとほぼ同じ月である。新しいストックが発表直後の現場ですぐに使われたわけで、韓国の撮影チームが新しいフィルムを取り入れる速さを示すサインでもある。ダイナミックレンジをいくらか狭め、色を凝縮した VERITA 200D の質感は、幼い子どもたちと一緒に撮ったファサのMVの温かいトーンによく合う選択だった。
Kodak VERITA 200D の紹介映像。出典はコダック公式製品ページ。© Eastman Kodak Company.
富士フイルムの発表は、製造終了ではなくサービス終了
ほぼ同じ時期に、富士フイルムがモノクロフィルムの現像とモノクロプリント製品を整理すると発表した。締め切りは 2026年7月21日までに受け付けた注文分。発表が短く、英語の表現が一行に縮められて伝わったせいで、SNS では「富士フイルムがモノクロフィルムを製造終了する」という形で一気に広まった。
事実は違う。終わるのは 富士フイルムイメージングシステムズが直接運営していたモノクロ現像処理サービスと、それに付随するモノクロプリント製品である。自前の暗室設備を持たない小さな写真店が、注文を富士に送って処理してもらっていた窓口が閉じるということだ。一般の市場で流通しているモノクロ印画紙や薬品の供給が途絶えるという意味ではない。
富士で唯一のモノクロフィルムである Neopan 100 ACROS II は、今回の発表に含まれていない。ただ ACROS II はもともと、富士の伝統的なモノクロフィルムの生産が2018年に一度止まったあと、2019年に別のコーティングパートナー、つまりイギリスのイルフォードの親会社ハーマンの協力で復活した製品だ。富士のモノクロラインは、とうの昔に「本社が自ら作るもの」から「名前だけ富士の委託生産」へ移っていた。
二つの発表が意味するもの
コダックの新製品と富士の撤退は、表向きは正反対に読める。だがどちらも同じ結論にたどり着く。フィルムはもはや大衆市場の産業ではない。
コダックは新製品をまず映画の現場の仕組みの中に置き、一般の写真市場は迂回路に任せるという分業を固めた。富士は直接運営していた利益の薄いモノクロ現像のインフラを畳み、フィルムそのものは外部パートナーの工場に委託して名前だけを貸す形へと絞り込んでいる。両社がずっと進んできた方向が、この春に一度に表に出たと言ってよい。
SNS の「富士モノクロ製造終了」騒ぎが示したのは一つだけだ。写真家たちが、フィルム1種、印画紙ひと束、現像1件が消えることにどれほど敏感になったか。その敏感さこそが、市場を支える最後の筋肉でもある。
まとめ
- VERITA 200D はコダックの新しい映画用カラーネガ。ISO 200、65・35・16mm。
- コダックは営業担当者を通してのみ供給。写真用の36枚撮りパトローネでは正式に流通しない。
- 韓国ではスソクフィルムがまず16mm、35mmも近く出す予定。ファサ〈So Cute〉のMVが最初の使用例。
- 富士フイルムは モノクロフィルムそのものを製造終了したのではなく、直接運営していたモノクロ現像・プリントサービスだけを7月21日付で終える。
- ACROS II はそのまま。ただし富士のモノクロラインはすでに委託生産の体制である。
参考:Kodak VERITA 200D 5206/7206 公式ページ、スソクフィルムのインスタグラム。韓国国内での供給時期・価格、富士フイルムコリアの公式見解は別途確認が必要。本記事の箱の画像はコダック・富士フイルムの公式資料。