写真集を開くと、まず目に入るのはよく撮れた何枚かの写真である。ところが同じ写真でも、どの順に置かれるか、隣のページに何が来るか、手にした本がどれほどの大きさかによって、読まれ方は変わる。よい写真集は、写真1枚の出来だけで決まるのだろうか。
今年のパリフォト=アパチャー写真集賞(Paris Photo–Aperture PhotoBook Awards)の最終候補が、この問いをあらためて呼び起こす。アパチャー財団は10月8日、3部門35冊の最終候補を発表した。受賞作は11月13日、パリフォトの会場とオンラインで発表される。
3つの部門、異なる基準
ファーストフォトブック賞(First PhotoBook)は、作家の最初の写真集に贈られる。最終候補は20冊で、賞金は1万ドルである。フォトブック・オブ・ザ・イヤー(PhotoBook of the Year)は作家と出版社の両方に贈られる。本をつくった側の役割まで認めるということで、候補は10冊である。写真図録賞(Photography Catalog of the Year)は展覧会図録や美術館の出版物から選ばれ、候補は5冊である。
本稿では3部門から4冊を選んだ。編集部はまだ実物を見ていない。出版社や作家が公開している説明、販売先の情報、レビューで確認できる範囲だけを記す。
「Üruklyn」、2つの都市の名を合わせた最初の本
ファーストフォトブック部門のマ・ハイルン(Ma Hailun)は、新疆ウルムチに生まれ、ニューヨークで写真を学んだ。書名はウルムチ(Ürümqi)とブルックリン(Brooklyn)を合わせた言葉である。2021年に始めた作業で、ウルムチとカシュガルの住民を撮影に招き、ファッション写真の手法で故郷を記録した。中国・寧波の出版社Jiazazhiが刊行し、出版社の説明によればシルクスクリーンのカバーをかけた180ページの本である。ファッション写真の演出と一地域の日常が、1冊の中で重なる。演出した写真をその土地の記録として読んでよいのか、読者が自分で考えることになる本である。
同じ部門には、デトロイトの黒人社会のデビュタント舞踏会を2022年から2025年まで撮ったミランダ・バーンズ(Miranda Barnes)の「Social Season」も入った。
「This Is Not My Cat」、手のひらほどの本
フォトブック・オブ・ザ・イヤー部門には、ホンマタカシ(Takashi Homma)の「This Is Not My Cat」が入った。チューリッヒのNievesとメルボルンのPerimeter Editionsが2025年に共同で刊行した。出版社が示す判型は11.2×17.8cm、80ページほどのソフトカバーである。アパチャーが同じ背景の上で撮った表紙写真を並べると、この本だけが目に見えて小さい。東京の慎ましいアパートの中を歩き回る猫を追い、膝や足、顔の半分など、写真家の体の一部がときおり画面に入ってくる。書名からは、彼の前作「Tokyo and My Daughter」が思い浮かぶ。その本の少女は、ホンマの娘ではなく知人の娘だった。写真に添えられた一行の言葉が、写真の読み方をどう変えるのか。小さな本1冊で、あらためて問い直している。
「Passports, 2012–2025」、1枚を300回
キーシャ・スカーヴィル(Keisha Scarville)の本は、父親のいちばん古いパスポート写真1枚から始まる。作家はその写真に300回以上手を加えた。絵の具やビーズ、金箔、グリッターをのせ、黒人の身体を写した別の写真の断片を貼り付けた。本には、1960年代から1980年代にガイアナとニューヨークで撮られた古い写真、父との会話を書き起こした文章、研究者ティナ・M・キャンプト(Tina M. Campt)の文章が一緒に収められている。出版社はMACKである。同じ顔が何百回も繰り返される作業は、1枚ずつ見れば変奏である。本として綴じられた瞬間に順序が生まれ、パスポート写真を中立的な証明として見てきた目をどこから揺さぶるかは、その順序が決める。こうした本では、編集が写真と同じくらい重い。
「L Is for Look」、子どもの写真絵本の歴史
図録部門の「L Is for Look: Children's Photobooks」は、子どもの写真絵本の歴史を扱った展覧会図録である。アンヌ・ラコスト(Anne Lacoste)とローズ・デュル(Rose Durr)が編み、ライプツィヒのSpector Booksが刊行した。1930年代から現在まで、各国で出た子どもの写真絵本100冊あまりを集めている。展覧会はフランス・リールのInstitut pour la photographieとスイス・ローザンヌのPhoto Elyséeが共同で企画し、ローザンヌで2026年2月1日まで開かれ、2028年までヨーロッパの複数の都市を巡回する予定である。写真絵本という形式そのものをあらためて見つめ直す本であり、今年の候補の中で、この賞の問いにもっとも近いところにある。
11月13日
受賞作は11月13日午後3時(中央ヨーロッパ標準時)、パリフォトで発表される。日本時間では同日午後11時である。35冊の全リストと各書の説明は、アパチャーの発表ページで見られる。賞がどの本に渡るにせよ、候補リストを一度眺めれば、今年の写真集がどんな形でつくられているかが分かる。