漫画を描くことにすべてを懸ける小学4年生の藤野がいる。ある日、学年新聞に載った一枚の絵が藤野を揺さぶる。学校に来ていない同級生、京本が描いた絵だ。漫画でつながった二人は、一緒に作品を描きはじめる。是枝裕和監督の実写映画『ルックバック』はこの物語をたどる。日本では9月11日に公開され、韓国では10月8日に劇場にかかった。

143ページの読み切りから始まった

原作は『チェンソーマン』の作者、藤本タツキが描いた読み切りである。2021年7月19日、『少年ジャンプ+』に143ページで掲載された。公開初日の閲覧数は250万回を超え、『このマンガがすごい!2022』オトコ編で1位になった。2024年には押山清高監督が1時間ほどの劇場アニメにした。日本で119館の公開から始まったこのアニメは、口コミで広がり興行収入20億円を超えた。

是枝はこの漫画を映画にするつもりで読んだわけではない。釜山国際映画祭の記者会見で、書店で偶然手に取ったときの衝撃が忘れられないと語った。是枝はこれを、ものをつくる人間が背負う業の物語として読んだ。そして自分にも「なぜ映画をつくるのか」という問いが返ってきたという。

夕暮れの野原。白いTシャツの子どもが、背を向けて立つ人物と向き合っている。
夕暮れの野原で二人が向き合う。低い光が草むらを染める。 ©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社

なぜフィルムだったのか

是枝は企画の最初の段階で、二つのことをプロデューサーに提案した。35mmフィルムで撮ること、そして四季を収めること。フィルムにこだわった理由は、韓国の報道によればこう説明している。「いま、ここで起きている瞬間に意識を集中できるからだ」。フィルムは撮り直しの機会が少なく、後から手を加える余地もデジタルより狭い。そのぶん俳優は緊張する。その緊張が現場で働き、観客に伝わると信じているという。

撮影は秋田県にかほ市を中心に、一年近く続いた。2025年2月から5月に冬と春を、7月に夏を、11月に秋を撮った。カメラを回したのは、是枝と長編映画で初めて組んだ上野千蔵である。

雪原で、ブームマイクとカメラを持つスタッフの前を二人の俳優が歩いていく。奥には雪をかぶった山が見える。
にかほの雪原。ブームマイクを持つスタッフの前を二人の俳優が歩く。メイキング写真。 ©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社

500Tと250D

コダック日本はこの映画を「SHOT ON KODAK」として紹介し、使用フィルムを「KODAK 35mm 500T / 250D」と記した。二つは性格が違う。VISION3 250Dは日光(約5500K)に合わせたデイライトフィルムで、粒子が細かく澄んでいる。VISION3 500Tはタングステン照明(約3200K)に合わせた高感度フィルムだ。どの場面でどちらを使ったかは、まだ公表されていない。

この二本はスチル写真家にもなじみがある。映画用の原反を35mmパトローネに巻き直して売る製品があり、普通のフィルムカメラでも撮れるからだ。本来はECN-2現像のフィルムで、裏面にレムジェット層がある原反は、現像の前にこの層を取り除く必要がある。5ft.magのフィルムカタログにもKodak Vision3 500TとVision3 250Dが載っている。

現場に付き添った写真家

映画の場面写真は写真家の濱田英明が撮った。約3か月にわたって撮影現場に通い、藤野と京本の日常を記録した。そのうち8枚が7月に公開されている。二人が初めて出会う場面、『少年ジャンプ』を手に雪道を歩く二人、黄色と深緑のスケッチブックを見下ろす京本が含まれる。にかほの四季を収めたメイキング写真7枚も別に公開された。

薄暗い部屋で、黄色いチェックの服の人物が、黄色と暗い色に分かれた「Sketch Book」の表紙を開いている。
黄色と暗い色に分かれた「Sketch Book」の表紙を開く。 ©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社
窓から差し込む光の下、二人が並んで寝そべり、紙に鉛筆で絵を描いている。
窓の光の下、二人が並んで寝そべって描く。 ©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社
本と画材が積まれた部屋。一人は窓際の机に背を向けて座り、もう一人は手前の低い机で絵を描いている。
本と画材が積まれた部屋。一人は窓際の机で、もう一人は手前の低い机で描く。 ©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社

キャストと上映

藤野を出口夏希が、京本を蒔田彩珠が演じた。二人の子ども時代は七瀬ふうりと岡田六花が担った。映画は第83回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門で初上映され、トロント国際映画祭スペシャル・プレゼンテーション部門にも招待された。韓国では第31回釜山国際映画祭ガラ・プレゼンテーション部門で先に観客と出会った。

アニメが原作の線をたどったとすれば、実写映画はフィルムに残った光をたどる。同じ物語をもう一度観る観客には、何が違って見えるだろうか。劇場で35mmフィルムの冬と夏を確かめてみたい。

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