「フィルムが消えていく時代を過ぎて、いまは名前が変わる時代だ。ただし、変わったのは名前だけではない。」
昨年9月、Eastman KodakがKodacolor 100と200という新しいフィルムを出したときから、どこか空気が違っていた。名前は昔のものだが、コダック本社がじかに流通させる35mmカラーネガの新製品は、ほぼ10年ぶりだった。価格は1本あたり約9ドル。小さな出来事に見えたが、実はこれが始まりだった。
今年3月24日、コダックは本格的に手札を広げた。カラーネガのラインEktacolor Pro 160/400/800の3種、モノクロのラインEktapan 100/400/P3200の3種。新しい名前のフィルムが一度に6種も登場したのだ。5月には大判シートフィルムと100ftバルクロールまで、ラインナップをさらに広げた。
問題は、これらの名前が新しくないという点だ。Ektacolorは1947年からコダックのプロ用カラーネガのブランドで、Ektapanは60年代のモノクロフィルムの名前である。つまりコダックは、60年代のクラシックな名前を引っぱり出して、いま私たちがよく知るフィルムに付け直したわけだ。
ラインナップ整理:事実上のPortraとT-Maxのリブランド
まず押さえておきたいこと。Ektacolor Pro 160/400/800はPortra 160/400/800と同じエマルジョンだ。Ektapan 100/400/P3200もT-Max 100/400/P3200と同じエマルジョンである。フィルムそのものは同じで、箱だけが違う。1本あたりEktacolor Proが約$16.99、Ektapanが約$10.99。フォーマットは35mmと120の両方が出ているが、P3200だけは35mmのみだ。



昨年9月に先に出たKodacolor 100/200は、リブランドではなく新しい製品ラインだ。ISO 100は低感度・高彩度・微粒子のコンシューマー向けフィルム、ISO 200は暗めの場面を少し補う役回り。Gold 200の位置に、新しい選択肢がもう一つ増えた格好だ。



ここで一つ、はっきりさせておくべきことがある。Kodachromeが復活したわけではない。名前がよく似ているのでたびたび混同されるが、KodachromeはK-14現像のスライドフィルムで、2009年に生産終了となり、復活していない。コダック本社も「現実的に復活は不可能」との立場を何度も示してきた。必要な化学原料と現像インフラがなくなったからだ。今回出たのはC-41のカラーネガKodacolorである。両者はまったく別のフィルムだ。



なぜ名前を変えたのか:2012年の経営破綻の後遺症
ここが今回の変化の核心だ。箱を替えるためだけにやったことではない。
2012年にEastman Kodakが経営破綻したとき、会社は二つに分かれた。Eastman Kodak Companyはロチェスターの工場でフィルムをつくる役割だけを残し、Kodak Alarisという別法人がそのフィルムを引き受けて、Portra・T-Max・Gold・Ektarといったおなじみの名前でブランディングし、世界中に流通させる役割を担った。それから14年間、私たちが買ってきたフィルムはすべてこの仕組みで流れてきた。工場はEastman、箱と営業はAlaris。
ところが昨年から、Eastman Kodakがそれを取り戻しはじめた。Kodacolor 100/200をじかに流通させたのが第一歩で、今年3月のEktacolor/Ektapanの発売で本格化した。一行でまとめれば、Eastman Kodakが自分のフィルムを再び自分で売るという宣言である。
ただし障害がある。PortraやT-Maxといったブランド名の商標権は、Kodak Alarisが持っている。Eastman Kodakが同じフィルムを自分の名前で売るなら、その名前は使えない。そこで昔のクラシックな名前を持ち出した。EktacolorとEktapanというカードは、コダック本社が権利を持ち、なおかつ写真家たちにどこか聞き覚えのある名前なのだ。
5月のラインナップ拡大とともに、コダック・アラリスがこれまで扱ってきたコダック・プロフェッショナルのフィルム全体が、Eastman Kodakの傘下へ戻りつつある。14年続いた分離の構造が、終わろうとしている。

写真家にとって何を意味するか
いますぐシャッターを切るときに変わることはない。同じ工場で同じエマルジョンをつくっている。色が変わることも、粒子が変わることもない。ただ、名前の混乱はしばらく避けられない。店でPortraを探したらEktacolor Proとして並んでいる、ということが起きる。これから始める人は、同じフィルムが二つの名前で出回る過渡期に出くわすことになる。
もう少し先まで見ると、この変化はよい方向かもしれないという声が多い。流通の段階が減れば価格競争力が生まれ、本社がじかに面倒を見れば生産終了のリスクも下がる。この十数年、フィルムの価格が上がり続けるなかで、Kodacolor 100が9ドル台で登場したことは、だから象徴的だ。

もちろん、まだ見えない部分もある。韓国での正式発売の時期と価格、既存のPortraの在庫がはける速さ、Kodak Alarisの今後の動き。どれもまだ絵が描けていない。韓国コダック側の公式案内が出るまでは、並行輸入と既存の流通がしばらく混ざって回る可能性が高い。
名前が変わっても、フィルムが変わるわけではない。ただ、誰がそのフィルムを売っているのか。そこははっきり変わった。
まとめ
- KodachromeではなくKodacolor。Kodachromeは生産終了のまま。
- 本当の新製品はKodacolor 100/200だけ。残りはすべてリブランド。
- Ektacolor Pro = Portra、Ektapan = T-Max。フィルムは同じ。
- 本当の出来事は箱のデザインではなく、Eastman Kodakが14年ぶりに自分のフィルムを自分の手で売るようになったこと。
- 写真家にとっては、価格と入手しやすさの面でよいサインである可能性が高い。
よいフィルムが、より安定して、より長く市場に残ってくれたらと思う。私たちが買うのは、結局その1本なのだから。
韓国での正式発売の時期・価格、コダック・コリア側の公式見解は別途確認が必要。本記事の箱と作例の画像はすべてコダックの公式資料。