「フィルムは視覚の温度で答えてくれました。赤い光のにじみの中で、ある人の部屋は孤独なモノドラマになり、ある人の街はにぎやかなシットコムになりました。」
創刊号から1年。ようやく紙の上に刻まれた、5ft magazineの2つ目の物語である。今号では、1本のフィルムがありふれた日常をどう映画のワンシーンに変えるのか、その変わり目の瞬間を収めた。2号目に何が載っているのか、少しだけのぞいてみる。
今号のテーマ:あなたの空間は、どんなジャンルですか?
表紙に記した一行、「あなたの空間は、どんなジャンルですか?」。2号目の写真と文章は、すべてこの問いのもとに集まった。見慣れた風景が一瞬で映画のワンシーンに変わる瞬間。その視覚の温度を、さまざまな視線で解きほぐしたのが今号の核である。
今号で使ったフィルムはCinestill 800T。ハリウッドの巨匠たちが愛する映画用フィルムKodak Vision3 500Tを、一般のラボ(C-41)でも処理できるよう改造した派生品だ。タングステン光の下では青寄りのバランスを保ち、強い光に出会うと赤いハレーション(Halation)を咲かせる。ファインダーの中の世界を、ありふれた現実の向こう側の場面に変えてしまうフィルムである。
3人の写真家、3つのジャンル
今号には3人の写真家と、ひとりの書き手、ひとりのインタビュイー、ひとりのイラストレーターが参加した。それぞれの空間を映画のジャンルになぞらえた彼らの答えを、順に追ってみる。
6人、それぞれ違うジャンル。同じフィルム1本がなぜこれほど違う風景を見せるのかは、ページを1枚ずつめくりながら確かめてほしい。
誌面の見開きを先取り
誌面に収めた3人の写真を少しだけ公開する。同じフィルムで撮りながら、まったく違うジャンルのミザンセーヌを持つ写真たちだ。
Jang Hyeong-suは誌面にこう書いた。「僕の空間のジャンルは、1本の映画というより、すべての映画なのかもしれません。すべての映画のミザンセーヌが、僕の空間のジャンルなのかもしれません。」うまく撮れた一枚ではなく、物語が止まっている場面。光は照明のように意図をもって置かれ、空間と物は黙って状況を語る。
Noh Ae-gyeongが撮るのは、姿を見せない人物、隠れた物語、空間の空気だ。「私の空間はどこかせわしなく混沌としていて、気ままで空想的なので、ディストピア・ファンタジーに近いと思います。」はっきりした意味はつかめない。けれどその余白から想像が始まる。静かに煮え立つ場面たちである。
Park Soon Yeolの視線は、街の小さな風景にとどまる。古びた椅子、ビニールを雑にかぶせた車、木の枝に引っかかったビニール。「華やかではないけれど、どこか少しさびしくて静かな風景。映画でいえば、主人公は出てこず背景ばかりが続く、ちょっと退屈なインディペンデント映画といったところでしょうか。」ほかの人は素通りするのに、自分の目にだけ引っかかるものたちだ。
街角で見つけた、日常の特別さ
今号のもうひとつの大きな柱はインタビューだ。鎌倉と東京を舞台に、20年ほど路上を撮り続けている写真家Shin Noguchi。彼はマーク・トウェインの「事実は小説より奇なり」を写真の信条にしている。5ft magazineは彼に会い、路上でシャッターを切るときの心持ちや、日常の中の非日常の瞬間について長く話を聞いた。
作品はガーディアン(The Guardian)、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)などの海外メディアで紹介され、エルメス(Hermès)やアップル(Apple)のクライアントワーク、ライカM 70周年キャンペーン「M is M」への選出など、世界が注目するストリートフォトグラファーである。
グレインはノイズではない
今号にはもうひとつ特別なコーナーがある。Film Social Clubがキュレーションした〈フィルムで記録された10本のシネマ〉(필름으로 기록된 10편의 시네마)だ。〈キャロル〉のひんやりした冬の空気から、〈フロリダ・プロジェクト〉の煮えたつ夏の日差し、〈恋する惑星〉のタングステンの夜景、そして〈オッペンハイマー〉の重厚なモノクロIMAXフィルムまで。巨匠たちの光の扱い方を、あなたのファインダーの中へ持ち込むための10本の記録である。
Vol.02の内容をひと目で
- ● Photo:Jang Hyeong-su、Noh Ae-gyeong、Park Soon Yeol
- ● Essay:Kim Hyun-a〈ばかな考えがくり返されるとき〉(멍청한 생각이 반복될 때)·〈日常ドラマのようであってほしい30代の恋愛〉(일상물 같길 바라는 30대 연애)
- ● Interview:Shin Noguchi
- ● Camera Review:Voigtländer Vitessa 500 AE(Ally Cameras・Kang Hye-won)
- ● Film Review:Cinestill 800T(Film Social Club)
- ● Feature:グレインはノイズではない、フィルムで記録された10本のシネマ(Film Social Club)
- ● Illustrator Story:Myeong Su-gyeong〈おうち時間〉(집콕)、〈デジタル写真ばかり撮っていたAさんの話〉(디지털 사진만 찍던 A씨의 사연)
次号予告
冷たい都市の中の、あたたかな視線
YouTuberのSajakkyo、写真家Nam Kyo-hyeonへのインタビューを準備中。
Vol.03はKodak T-Max 400で作る。すべての色が消えてはじめて見えてくる鮮明さ。カメラレビューではLeica Barnack IIIfのロマンと不便の美学を、インタビューでは冷たい都市の中のあたたかな視線を写す写真家でYouTuberのSajakkyo(Nam Kyo-hyeon)に会う。
同じフィルム、違う人、違うジャンル。それが私たちが毎号約束していることだ。5ft magazineがめざすのは、ひとりで満足する写真ではない。より多くの人と志を合わせて作っていく、共に生きる雑誌である。
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